空想したほど、左手のパートが生き生きと聴こえました。
ただ、弾く姿勢が気になったせいか、腕全体を使って鳴らすようなベートーヴェン独特の重い音のアクセントが効いていないように感じられ、
また、小さなミスをすることが比較的多く、余裕が感じられなかったためか、軽妙さやしっとり感や凛々しさなど、表情の変化の豊かさの幅が
あまり感じられず、曲の展開が醸し出す“ふくらみ”といいますか雰囲気に、観客として惹きこまれるような体験を得ることはできませんでした。
(ピアノソナタ12番の印象的な第3楽章は雰囲気がよく出ていました。)
私の目的である32番のアリエッタは、おそらく17分くらいの程よく引き締まったテンポの演奏。上記の印象はほぼ同じで、
ポミエやA・シフの録音から聴かれる音の表情の微妙な抑揚こそ感じられなかったものの、非常に集中しておられ、曲の魅力の6〜7割くらいが
伝わってくる良質な演奏と思いました。
68歳というお歳をどう受け止めていいのか分かりませんでしたが、シフやレーゼル、ツィメルマンなどの32番のコンサート体験とは別に
お一人のピアニスト人生で培ってきたものや手の届かなかったものを何となく感じながら、32番のソナタを縁に接点を持たせてもらったことを
私自身にとって良い経験だったと思いつつ帰宅しました。
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